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リニア編集時代の編集経験を最大限生かす

ビデオエディター 大見義裕氏

 
ohmi_001.jpg「基本的なエフェクトの組み合わせ方が理解できると、多彩な表現を作ることができるんですよ」と話すのは、大見義裕さんです。大見さんは、フリーのビデオエディターとして番組の編集や企業/団体のビデオ編集に取り組むかたわら、同時に自分のWebサイト『お~ミ~!どっとこむ』でEDIUSによるビデオ編集講座を公開し、ビデオ編集技術の底上げにも力を入れています。

被写体とカメラの距離を考慮したマルチカム編集

 「ビデオ編集には40年近く携わっています。最近は、医学学会のセミナーを4~5台のビデオカメラで撮影して、編集後にDVDで納品するという、記録映像の仕事が増えています。この仕事は、映像の制作会社にEDIUSを導入してもらうことで、急な変更が発生した時にもすぐに対応できるような態勢にしています。撮影は、ソニー製ハンディカムNEX-VG20にシグマ製望遠ズームAPO 50-500mm F4.5-6.3を組み合わせたものをメインに使用しながら、複数のハンディカムで行なっています。撮影時にアップで使うのであれば、業務用カメラの方が上回りますが、会場をロングで撮るのであれば、民生の小型ビデオカメラでも充分に活用できると考えています。編集は、EDIUSでマルチカム編集をしています」。

 大見さんは、音声でクリップの同期を確認して編集をしています。

 「基本的には音声を聞いて合わせますが、あとはカメラの距離を考慮しながらフレームの調整を行ないます。音声をラインでもらっているのか、実際の生音源を収録しているのかによっても変わります。音速は秒速340mですから、約10m離れると1フレーム、映像と音声がズレるんですね。約30m離れていると0.1秒ですから、意外とズレは大きいですよ。生音源を収録して、被写体から距離がある時は注意が必要です」。

トラブルを発生させないワークフロー作り

 80年代まではポストプロでテレビ番組などのリニア編集をしていたという大見さんですが、当時から自宅で編集できないかと考えていたと言います。これなら個人で購入して活用できるかもしれないと思える製品として出会ったのが、旧カノープスのノンリニア編集製品DV Rex RT Professionalでした。「当時はDV編集でしたが、付属のRex Editを使って、軽快に編集することができました。画質も、当時一般的に使用されていたマイクロソフトのコーデックを使うよりも明らかにきれいだったんです」。

 こうしてEDIUSになる前のノンリニア編集ソフトウェアRex Editを使い始めましたが、カット編集が中心のソフトウェアであったため、Boris FX製のエフェクト作成ソフトウェア Boris REDを購入して活用して来ました。

 「プラグイン製品は、ノンリニア編集ソフトウェアのバージョンが上がった時に、すぐに対応してくれるかどうかも分かりません。編集したプロジェクトを、クライアントのマシンに持って行った時に、自分と同じバージョンのプラグインが入った同じ環境があるわけでもありません。トラブルを回避するために、プラグイン製品ではなくスタンドアローン製品を使ってます」。

 このトラブル回避の方針は、EDIUSでエフェクト類を使う時にも貫かれています。大見さんはカット編集段階ではほとんどエフェクトを使用せず、テロップなどもシンプルなものを使っています。コーナータイトルなど強調したい部分だけにエフェクトを限定的に使用していますが、そのエフェクトも、基本的なエフェクトを組み合わせて表現したものが中心で、どうしても凝りたい時にはBoris REDで作成してから、ビデオ素材として取り込む方法を採っています。
ohmi_DSC0521.JPG「業務で使用しているので、最終的に欲しい効果が得られればいいんです。そのため、あらかじめ不具合が出ないようにワークフローを組んでおいたり、どうしても不具合が生じてしまった場合は他のもので代用して、作って持ってくるとかしてしまうんです。不具合の状態を解析して、何が何でもその不具合を解決しようというようなこだわりはないんです」。

技術継承に『お~ミ~!どっとこむ』を立ち上げ

 大見さんは「DV編集時代からずっとEDIUSは処理が軽く、特にフィルター系の処理を何種類か併用してもサクサク動作するので使い続けています」と話す。「最近では、10bit処理が可能になったことで、カラーコレクションもプレビューも出力も、映像の品質が大きく改善していますね。カラーコレクションを2重3重にかけてしまったら画質が落ちてしまうと言われますが、10bit処理ができるようになり、極端なことをしない限り、最終品質で気付く人はいないと思います」。

 EDIUSはエフェクトが弱いという声もあるなか、大見さんは基本的なエフェクトだけでも充分に多彩な効果が出せると話しています。

 「多くのエフェクトが、基本機能の組み合わせや応用で成り立っています。リニア編集時代に昔の技術を応用して作品を作っていたように、ノンリニア編集でも基本機能を使い込むことでさまざまな表現が可能になるのではないかと思いました。現在エフェクトソフトなどに使われている効果も、私が以前にリニア編集で作ったものと同じような効果が多いんです。それなら基本機能を使いこなせば実現できるのではないかと考え、ネット上で紹介するようになったんです。 『お~ミ~!どっとこむ』で紹介するものは、EDIUSのどのバージョンにも入っている基本的なエフェクトを使用したものが中心となっています。すでに45種類以上の表現が動画で紹介されているほか、一部はプロジェクトもダウンロードできるようにしてあります。素材やテキストを変更するだけで、そのまま活用することができるようにしています」。

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 「基本的なエフェクトを、どのような表現に使うことができるのか、その原理と効果を知っているということは重要です。基本的なエフェクトを組み合わせて作ったエフェクトを1つ作ると、エフェクトの種類を変えるだけで多彩な表現ができ、応用が効くんです。タイトルのエフェクトだけではなく、ワイプにも使えるのではないかと発想も広がります」。タイトルについても、ビデオ列に配置することでエフェクトを活用しています。

 「『タイトルはタイトルトラックしか使えなないので単純なものしか入れられない』と思い込んでる人がいます。しかし、タイトルもビデオトラックに入れてしまえば、多くのトランジションが使えるようになります。EDIUSは、決してタイトル回りが弱いということはないんです」。

 『お~ミ~!どっとこむ』は、もっとEDIUSを使い込んで、表現の可能性を拡げて欲しいとの思いがあるようです。「基本的なエフェクトをベースにしているので、他のノンリニア編集ソフトウェアでもタイムラインを再現できるかもしれません」と話しつつも、「さまざまなコーデックを組み合わせて、レンダリングを最小限にしながら多くの表現を生み出すことができるのはEDIUSの強み」とも話しています。

 「リニア編集もノンリニア編集も、構成が頭の中にないと編集がうまくいかないのは変わりません。リニア編集で不都合な部分が数多くあったなか、先を予想しながらここではこうしておいた方がいいなと頭に浮かんでくるものはありますね。音響に携わる人は、試行錯誤しながら工夫してサウンドを仕上げていくことが多いのですが、映像制作の場合は、メーカーが提供するものをそのまま使いたがる印象がありますね。そのまま使ううのであればそこから先の表現はないのですが、工夫すればここまでできますよというものを、自分たちでどんどん生み出していきましょう」。

大見 義裕 Profile

1980年代からポストプロダクションでテレビ番組を制作。ファイルベース化に伴い、フリーのビデオエディターとしての活動を開始し、番組の編集や企業/団体のビデオ編集に携わっています。Webサイト「おーミー!どっとこむ」でビデオ編集技術の底上げにも取り組んでいます。
サイト:おーミー!どっとこむ
YouTubeチャンネル

(取材:イメージアイ秋山謙一)

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