EDIUSを海外映画作品の日本語版作成に利用
有限会社マキシメディア 井上 晃氏
海外映画作品の翻訳から台本制作、吹き替え、字幕挿入を行ない、日本語版DVDの映像を作成しているのがマキシメディアです。代表取締役の井上晃さんは、EDIUSによる日本語版DVD用映像の制作のほか、雑誌付録用のDVD制作や各種企業VPの制作、動画配信のサポートも行なっています。VIDEONETWORK岡英史さん、有限会社アルファ・ビジョンの猿田守一さんとともに、映像機器を紹介するUSTREAM番組『HD USERS』の配信にも力を入れ、新製品や映像イベントのレポートをタイムリーに提供し続けています。
ブライダルDVD制作で旧カノープス製品と出会う
もともと制作会社で報道カメラマンをしていた井上さん。当時は、ベータカムを担いで撮影に行って、素材を撮ってくることが仕事だったと話す。会社には、カメラマンとは別に編集マンがいて、ポストプロにベータカムテープを持ち込んで、VHSテープにコピーしてから仮編集を行ない、ベータカムでオンライン編集をしていました。
「当時は撮影だけで編集には関わっていなかったんです。その後、ソニーのベータカムSPレコーダーUVW-1800とビデオ編集システムのFXE-120を導入して、自社内で最終完パケまで制作するようになったため編集もするようになったんです。これが、自分で編集をするきっかけですね。UVW-1800とFXE-120で字幕挿入をするプロジェクトで、導入から2年間、年200本ペースでアニメ番組の字幕版を制作しました」。
しかし、当時勤めていた制作会社は倒産してしまい、その時の業務を引き継いで有限会社マキシメディアを立ち上げたのが2000年2月のこと。CS番組が洋画のバイヤーから日本語版制作の権利を買った作品に対して、翻訳、日本語吹き替え用の台本を制作し、吹き替えの演出と収録、字幕作成/編集を行って納めるという仕事から始めました。この海外映画日本語版の制作と平行して、カメラマンとしてキー局の報道番組に使う海外取材映像素材の撮影もしてきました。
「当時、グアムでブライダルの仕事に関わっていた同僚が、ライバル会社がブライダルビデオをCD-ROMコンテンツとして商品化しようとしているが、対抗できるアイデアはないかと相談に来たんです。そこで、メニューも入ったDVD-Videoの商品化を提案しました。そのDVD-Videoを訴求させるために、ビデオ編集段階から内製で試行錯誤するために導入したのがDV Rexだったんです。新たに会社を立ち上げるのと同時期に登場したDV Stormは、すぐに導入し、企業VPの制作にも活用し始めました」。
さまざまな映像素材を混在できる強みを生かす
井上さんは、ハードウェアとドライバーが確実に動作すると好評だった旧カノープスのDV Rex/DV Storm時代から製品を活用。EDIUSを仕事に活用しはじめたのはバージョン3.0になったころからです。放送局の仕事もある井上さんにとって、EDL編集に対応してデータ受け渡しができるようになったり、より高度な編集に耐えられるようになったことが、EDIUSの活用に踏み切るきっかけでした。EDIUSを使い続けるもっとも大きな理由は、「映像フォーマットが混在でき、タイムラインでほとんどの素材をレンダリングすることなく再生でき、高速であること」にありました。
「海外映画の日本語版を制作しているため、ベータカム/デジタルベータカムに始まって、HDCAMやファイル素材までまざまなメディアフォーマットを扱って来ました。NTSCだけでなくPAL/SECAMの映像フォーマットがあり、フレームレートも60i/50iだけでなく24pの場合もあります。最近は、HDDで素材ファイルを渡されることも増え、送られて来るまで映像のファイルコーデックが分からないことも多くなりました。素材としてクオリティが維持できるように、GrassValley HQコーデックかApple ProRes 422コーデックを使ってエンコードしてもらえるように、パラメータの表を作ってクライアントに渡していますが、そこまでやっても、コーデックを無視して送って来たり、解像度が不足していたりするケースもあります。さまざまな映像素材が送られてくる仕事なので、タイムラインにどんな素材も載せることができ、レンダリングすることなくリアルタイムで作業を開始できるEDIUSは欠かせない存在です。DVD制作は最終的にはSD解像度での出力ですが、地方局やケーブルテレビの洋画劇場など、放送番組用途にも使えるように、HD出力してHDCAMでの納品もしています」。
この海外映画の日本語版制作のほかに、報道番組ではコーデックを変換するためにEDIUSを活用したこともあると、井上さんは話します。
「全国ネットのドキュメンタリー番組で、世界3カ所で撮った映像を取り寄せて、その場で編集して放送するという取り組みが行なわれたことがあります。それぞれの素材自体は1分ほどの短い尺でしたが、どんなフォーマットで送られて来るのか分からないので、Final Cut Proで編集できるようにして欲しいという相談を受けたんです。制作は大阪の放送局だったので、局内で映像をダウンロードして、EDIUSのタイムラインに読み込んで、XDCAM素材としてSxSカードに書き出して渡すということを繰り返しました。ファイルコンバーター的な使い方ですが、タイムラインに何でも載せられるEDIUSならではの使い方ですね」。
MacのBoot Camp環境でEDIUSを活用
井上さんは、グラスバレーがBoot Camp環境でEDIUSを動作させるのを公式に認める以前から、EDIUSをBoot Camp環境で利用して来ました。
「Appleが、Boot CampでWindowsをサポートし始めた時からEDIUSをMacBook Proでも使って来ました。AppleがWindowsをネイティブ動作させる保証を与えてくれるBoot Campを用意しているので、自作PCとは違う安定性も高速性も得られますね」。
Macは、FireWire/IEEE 1394をはじめ、ExpressCardやThunderbolt I/Oなど、映像制作に必要なインタフェースをWindowsよりも早い時期に搭載して来ました。これも、Macを使う理由になっています。「現在、ExpressCardスロットのある17インチMacBook Proを使い続けています。ソニーのXDCAM EXで使われるSxSカードを直接差し込んで読み書きできます」。
井上さんは、「グラスバレーには、EDIUSユーザーを増やすために、Mac環境についてはもっと積極的に動いてもらいたい」と感じているようです。
「映像制作の仕事をしていると、企業でのビジネスユーザー以上に、Mac環境を使用している人はかなり多いです。GrassValley HQ/HQXコーデックがMacに対応したので、メディア交換などでは便利になりましたが、EDIUS自体をMacユーザーに訴求できないのは残念ですね。グラスバレーは、『Boot Campがありますよ』と言うのでしょうが、起動し直す必要がありますし、Windowsのインストールも必要になりますから敷居が高いです。そもそもMacユーザーはWindows OSを好まない人も多いですからね。開発費がかかるのは理解していますが、ワールドワイドでシェアを増やしていきたいなら、Mac版も必要なのではないでしょうか」。
使い勝手の向上はプリセットの充実が必要
EDIUSの基本機能には満足している井上さんは、プリセットを充実させることでEDIUSはより使いやすいものになると話しました。
「EDIUSは、プロジェクトプリセットやデバイスプリセット、LUT(ルックアップテーブル)プリセットなどで、起動して簡単に使える実用的なプリセットが少ないと感じています。DV 16:9のプロジェクトプリセットもテープ系デバイスのデバイスプリセットもなくなりました。確かにプリセットウィザードを起動して設定を作り込めば使えるけれども、最初に起動して設定に困ってしまうユーザーは多いですね」。
HD素材が中心になってSDのプロジェクトを利用するケースは減っているが、以前のテープ素材を使ってプロジェクトを作り直す必要があった場合に、デッキからキャプチャするためのデバイスプリセットから作り直すのはかなり大変だと話しました。編集面では、RAWやLogの中間調ばかりの撮影データを標準的なビデオカラーに変換するプリセットがあるだけでも、作業効率が変わってくると話しました。
「カラーグレーディングは、ルックを自分の好みに仕上げていく作業だと思っています。各社のカメラは、RAWやLogで撮れるカメラも増えて来ているので、それらのデータをRec.701の標準的なビデオカラーに変換するプリセットがあれば、RAWやLogなんて意識せずに、そこから自分の好みの色に変えやすくなりますよね」。
「EDIUSが好きで、仕事にEDIUSは不可欠」と話している井上さんだからこそ、「もっと多くの人に使ってもらいたい」と、時には厳しい評価をしながらもEDIUSの機能をしっかりと使い込み、困った人へのアドバイスへも生かしていっています。
井上 晃 Profile
有限会社マキシメディア代表。キャメラマンとしては海外報道を主体に活動。国内では各種企業用ビデオパッケージの製作や、洋画・アニメの日本語吹替版の製作を行なっています。ライブ配信にも取り組み、USTREAM番組HD USERSの配信、機材レポートを担当しています。
サイト:月刊HD Users
(取材:イメージアイ秋山謙一)
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