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Let’s HDR! Vol.2 「HDRはどうやって制作する?」

2-1 概略の流れ

EDIUS 9.4によるHDRコンテンツの制作の基本的な流れは、次のようになります。

Log/RAW/HLGで撮影した素材を用いる

プロジェクトの「カラースペース」をターゲットのカラースペースに設定する

素材を「プライマリーカラーコレクション」でターゲットのカラースペースに変換して編集する

基本的には従来のSDR制作と同じですが、プライマリーカラーコレクションでカラースペース変換を行う点が異なります。素材のカラースペースとターゲットのカラースペースが同じ場合には、カラースペース変換は必要ありませんが、露出調整などを行うためにも、常にプライマリーカラーコレクションを使うと考えておいたほうがいいでしょう。

大切な点は、カメラ(素材)とプレビューモニターが、使用するLogやHDRに対応している必要があることです。

以下に、各ステップの注意点を順に説明します。

2-2 プレビューの手段

第1章でご説明したように、HDRと言っても、信号の形態はSDRと同じですので、同じ方法でプレビューできます。問題は、その信号を表示するモニターがHDRに対応しているかどうかです。さらに、HDR対応モニターであっても、従来どおりSDR信号も表示できますから、何もしなければSDR表示モードになっています。HDRを表示するには、モニターを信号のカラースペースに合ったHDR表示モードに切り替えてやる必要があります。

ところで、PCの画面を表示するディスプレイに、HDR対応のものがあります。これはモードの切り替えや表示信号の制御などをWindowsの管理下で行うもので、映像表示を行うアプリケーションがこの機能に対応している必要があります。EDIUS 9.4は残念ながらまだこの機能に対応していないので、Windows 10のHDR機能を利用したプレビューをすることができません。

HDRのプレビューを行うためには、PCに弊社製やAJA、Blackmagic Designなどのビデオ専用I/Fボードを装着し、SDIやHDMIケーブルで外部モニターと接続します。

SDIで接続する場合は、モニターに表示カラースペースを設定する機能がありますので、モニターのメニューを開いて、EDIUSが出力するカラースペースと同じものを選びます。

HDMIでは、映像信号に加えて映像のカラースペース情報を乗せることができます。HDMI入力を持つモニターやTVには、その情報に従って表示モードを切り替えるオートモードと、メニュー操作によって手動で切り替える機能の、両方を持つものと、オート機能のみを持つものとがあります。EDIUSのプレビューモニターとして用いるには、手動で切り替える機能を持ったものを選んでください。例外としてAJAのボードの場合には、EDIUSと併用して「AJA ControlPanel」というアプリケーションを起動し、その画面上で表示モードを選択することができます。

いずれにしても、EDIUSが出力するカラースペースと同じ表示設定を選んでください。

EDIUS Workgroupでは、「モニターコントロール」機能が使えます。対応機種を接続している場合には、EDIUSのプロジェクト設定と同じカラースペースに自動的に切り替わります。

2-3 撮影

素材はHDR対応カメラで撮影することが必要です。LogやRAWは、SDR制作にも用いられてきたので、HDRとは別物というイメージを持たれている方がおられるかもしれませんが、ダイナミックレンジが広いという意味で、HDRの一種です。LogやRAWで撮影した素材はHDR素材として使用できます。

また、HLGで撮影できるカメラもあります。HLGで撮影した素材も、もちろんHDR素材として使用できます。EDIUSの場合、1 – 3節の表1の「主な用途」欄に「(SDR)」と書いてあるもの以外のガンマであれば、HDR素材として使用できます。

RAWでは、Canon Cinema RAW/Cinema RAW Lightと、Sony RAW/X-OCNがHDR素材として使用できます。RED R3Dは読み込めますが、残念ながら現時点のEDIUSの仕様ではHDRとして読み込むことができません。

次に、1 – 3節の表2のガマットについてですが、HDRであるかどうかはガンマで決まり、ガマットは直接関係がありません。ガンマとガマットの組み合わせは自由です。しかし、多くのカメラではHDRのガンマを選ぶと、決められたワイドカラーガマットが自動的に選ばれます。ガマットを選択できる場合は、BT.2020か、カメラメーカー策定したワイドカラーガマットを選べばよいでしょう。

どんなガマットとガンマを使用して撮影したのかの情報が、編集時に必要になります。多くの場合はEDIUSにファイルをインポートすると自動認識されますが、自動認識されないケースもあるので、メモを取るなどして、後から撮影時のガマットとガンマがわかるようにしておくと安心です。

また、データビット長が8bitか10bitかを指定できる場合は、10bitをお勧めします。

HDRカメラで撮影を行う場合に戸惑うのが露出の決め方です。SDRでは、露出が高すぎると白飛びを起こして、真っ白につぶれてしまうか、そこまで行かなくても、濃淡がわかりにくくなったり、色が薄くなったりしました。HDRは輝度のダイナミックレンジが広いので、多少露出が高くても低くても、そのような破綻は起こりにくくなっています。そのぶん、露出決定の決め手になるものがありません。

そのため、ウェーブフォームなどを表示して、およそ次のようなレベルを目安とすると良いでしょう。

  • 基準白の被写体、あるいは、自ら発光したり鏡面反射したりするのではない普通の被写体で最も明るい部分の信号レベルの表示輝度が200nits程度になるようにする

これは、HLG基準白の表示輝度を203nitsとするARIB TR-B43のガイドラインを準用したものです。HLG以外のガンマでも、また撮影時から、これに合わせなければならない必然性はありませんが、一応の目安にはなります。

では、表示輝度が200nitsになる信号レベルはどうすればわかるのでしょう?これは、信号のガンマの種類ごとに違います。撮影したファイルをEDIUSに読み込めば、確認することができます。その手順を以下に説明します。

まず、「ユーザー設定」-「アプリケーション」-「その他」を開き、「プレーヤーのフォーマット」に「素材のフォーマット」を選択しておきます。

 

撮影したファイルをEDIUSのビンまたはタイムラインに読み込みます。このとき、プロパティを開いて、素材のカラースペースを確認しておきましょう。多くのカメラフォーマットでは自動で正しく認識されますが、認識できないファイルもあります。たとえば、Logフォーマットで撮影したのに「BT.709*」と表示されている場合があります。そのような場合は、撮影時の設定内容に変更してください。

次に、「ビデオスコープ」を表示し、「ウェーブフォーム」画面が見える状態にします。「RGB」タイプがわかりやすいのではないかと思います。この状態では、「ビデオスコープ」はタイムラインの出力を表示しています。「ビデオスコープ」の左上には、「プロジェクト設定」の「カラースペース」名が表示されています。ここで、ビンまたはタイムライン上の素材クリップをダブルクリックして、素材を「プレーヤーで表示」する状態にします。すると、「ビデオスコープ」の左上の表示が素材のカラースペース名に変わります。この状態では、ウェーブフォームの右側の「nits」表示が、素材のカラースペースに対応したものに変わります。

右の図はPanasonic V-Log素材の場合の例ですが、V-Log信号のレベルを表示輝度に換算した目盛がnits単位で表示されています。これを見て、200 nitsのレベルが確認できます。ただ、200 nitsの位置にいつも目盛線が現れるとは限りません。そこで、「カーソル」のひとつにチェックマークを付け、その数値に200を入力します。すると200 nitsの位置に水平のカーソル線が表示されるので、見やすくなります。

この映像の被写体は、下図のように、中央に試験管のようなガラス容器を立て、その一部には白い布を巻いています。なおこの図は、ATOMOS SUMOなどのV-Log対応ディスプレイでプレビューした場合を想定したもので、PC画面などのBT.709ディスプレイでは、これよりコントラストが低い灰色がかった映像に見えます。

正面から照明光を当てているので、管の中央部分が最も明るくなっています。ウェーブフォームで見ると逆U字型の波形になるので、よくわかります。逆U字型の波形が布の部分で、その上に細い線のように立ち上がっている波形は、ガラス面が反射している明るい光です。布の部分は白色なので、R、G、Bのいずれもがほぼ同じレベルになっています。この部分が基準白に近い輝度だと思われます。したがって、逆U字型の頂上が200 nits程度になればいいのです。

ウェーブフォームから逆U字型の頂上部分の輝度を読み取ると、300 nits程度になっています。したがって、このときの撮影は少し露出オーバーです。このときより200 ÷ 300 = 0.67 倍くらいに下げればよいので、絞りで言えばあと3分の2ストップほど絞って撮影すればよいことになります。

ただ、露出オーバーとは言っても、SDRのときとは違って、映像が白飛びしているわけではありません。編集時に露出を下げる処理を行っても結果はほとんど変わらないので、撮影時の露出レベルをあまり細かく気にする必要はありません。とはいえ、あまり露出が高すぎると、ガラス管が反射して明るく輝いている部分などがクリップしてしまい、せっかくのHDRのメリットが出せなくなります。また露出が低すぎると、相対的にノイズが増えてくるので、これも好ましくありません。

以上のようにして、基準白の信号レベルの目安がわかったら、撮影時にカメラのウェーブフォーム表示で確認するとか、その信号レベルのあたりでゼブラが出るようにカメラを設定するなどして、適正な露出で撮影するようにします。

2-4 編集

EDIUSのプロジェクトを作成するとき、出力したいカラースペースとフレームサイズとフレームレートを設定します。

また、[ビデオ量子化ビット数]には、カメラが出力するファイルのビット数や、最終的に出力する作品ファイルのビット数にかかわらず[10bit]を選んでください。

次に、撮影したクリップをビンウィンドウに取り込みます。その手順はSDRの場合と変わりありません。

2-3 撮影 で素材をプレビューしたときと同じように、クリップの[プロパティ]ダイアログを開き、[カラースペース]の項目を確認します。撮影時に使用したガマットとガンマが表示されていれば良いのですが、素材によっては自動認識できない場合もあり、その場合は[BT.709*]と表示されています。もしそうなっていれば、プルダウンメニューから使用したガマットとガンマを選んで変更しておきます。

その後、素材をタイムラインに置いて、プライマリーカラーコレクションを適用します。設定画面を開くと右のようになっており、これによって目的のカラースペースの信号に変換されます。

この状態で、プライマリーカラーコレクションの「露出」やカラーコレクションの項目を操作して、映像調整を行います。輝度レベルが合っていない場合には「露出」を調整します。これも2-3 撮影 で素材をプレビューしたときと同じですが、今の場合はレコーダーの出力をプレビューします。「ビデオスコープ」の左上には、「プロジェクト設定」の「カラースペース」名が表示され、タイムラインの出力を表示しています。ウェーブフォームの右側の「nits」表示が、プロジェクト設定のカラースペースに対応しているので、これを参考にして「露出」を調整します。

2-5 SDR素材を使用する場合の手順

当面は、HDR映像を編集するにあたり、一部に既存のSDR(BT.709)素材を使用することも必要になると思われます。この場合、BT.709素材をHDRに変換して、HDR編集に使用することになります。その変換手順については、HDRとしてHLGを使用する場合の例になりますが、別途ご提供する手順書 ARIB TR-B43準拠のSDRからHLGへのマッピング を参照ください。

この手順でSDR素材ファイルをHLG素材ファイルに変換して書き出し、それを使用してHLG編集を行います。

なお、上記の別途資料では、輝度の単位をARIBガイドラインの記述に合わせてcd/m2としています。これは本資料で用いているnitsと同じ単位ですので、そのようにご理解ください。

2-6 タイトルの使用方法

HDR映像にタイトルを加えたい場合、クイックタイトラーの使用方法に注意が必要です。クイックタイトラーはBT.709信号での出力になるからです。そのため、HDR映像にタイトルを挿入する際には、タイトラーの出力をHDR信号に変換してやる必要があります。別途ご提供する資料 HDR映像へのタイトル挿入の手順 に、その方法が書かれていますので、ご参照ください。

2-7 Log/RAW素材を使用する場合のコントラスト補強

一般に映像では、カメラに入射した光の強さに対し、それをそのまま比例させた強さでディスプレイを発光させた場合には、人の目の特性のため、コントラストが不足した映像に感じます。一般視聴者向けに配信するための信号規格(HLGやPQやBT.709など)では、カメラからディスプレイまでの総合特性がコントラスト不足を補うものになるように規定されています。いわば、知らず知らずのうちに必要最小限のカラーコレクションが行われると考えることができます。

しかし、業務用である各種LogやRAWカメラでは、ポストプロダクションでコントラスト不足を補う必要があります。編集の過程でプライマリーカラーコレクションの「カーブ」を使用してコントラスト不足を補います。これはカラーコレクションの一部と考えられるので、プレビューモニターを目視して好ましい映像になるように調整すれば問題ありません。

 

ただ、目安となるよう、調整例を挙げておきます。これは、システムガンマが1.2の映像に近づくように調整した例です。素材のLogの種類によって、同じ内容の調整でも設定値が異なります。ここでは素材がSony S-Log3とPanasonic V-LogとCanon Log2の場合の例を挙げます。

Sony RAWの場合は、EDIUSに素材をインポートするとS-Log3に変換されて読み込まれるので、S-Log3素材と同じ設定を使用します。

Canon Cinema RAWの場合は、素材によってガンマが決まります。Canon Log2素材の場合に、本例が適用できます。

2-8 編集結果の出力

繰り返しになりますが、HDRであれSDRであれ、信号の形態は同じです。したがって、HDR編集の結果は、どのエクスポーターでも書き出すことができます。しかし、信号の形態が同じということは、それを再生する場合にも信号自体からは区別がつかないということです。HDRファイルを誤ってSDRとして再生すると、コントラストが低い灰色がかった映像として表示されます。HDRとして再生する場合でも、カラースペースの種類を取り違えると、色やトーンが正しく再生されません。

そこで、一部のファイルでは、カラースペースに関する情報がメタデータとして付加されるようになっており、それに対応する機器やアプリケーションではカラースペースが自動認識できます。

H.264/AVC、H.265/HEVC、MXF(HQX)、QuickTime(HQX)、XAVC、XAVC Sのいずれかのエクスポーターでファイルへ出力すると、プロジェクト設定のカラースペースのメタデータが付加されたファイルが作成されます。

HDRの場合、ワークフロー上可能なものについては、10ビット深度で出力することが望ましいです。H.264/AVCとH.265/HEVCには、「10bit」と表記されたプリセットが用意されているので、それを用いると良いでしょう。

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